(監修:ジャパンアクネボード)
これは、ディフェリンゲルが発売(2008年)された際に
疾患啓蒙ツールとしてガルデルマ社から提供された動画です。
当時は院内のTVモニターにて繰り返し再生で流していたので、
当院に通院されていた方はご記憶されているかも知れません。
ニキビについての理解につながればと思い、改めてこの
ブログにアップしました。
あわせて、その当時に患者さんに抗菌剤外用から脱却して、
毛包漏斗部の角化を抑制して面疱発症を予防できるように
なった国内初の薬剤であるディフェリンを是非とも導入して
頂きたいとの思いで患者さんにお話していた内容の資料も
掲載しておきます。
現時点(2021.7)ではディフェリンゲル(アダパレン)以外
にもディフェリンのジェネリック、過酸化ベンゾイル製剤で
あるベピオゲル、過酸化ベンゾイルとクリンダマイシンの
配合剤であるデュアック配合ゲル、さらには過酸化ベンゾイル
とアダパレンの合剤であるエピデュオゲルも使用できるのです
から、大きく進歩しています。
(ニキビの発症機序)
尋常性ざ瘡は皮脂腺が発達した脂腺性毛包に発生
1)皮脂増加
皮脂腺は主に男性ホルモンの影響を受ける
皮脂腺周囲へ移行する男性ホルモンの増加によって
皮脂分泌が亢進
2)毛包漏斗部の角化
3)皮脂の貯留と皮脂を栄養とする常在菌の
アクネ菌が増殖
これらによって、
微小面疱
↓
閉鎖面疱→開放面疱
↓ *面疱内でアクネ菌がさらに増殖し、好中球走化性
因子と細菌性リパーゼを大量に産生
↓ 好中球からの活性酸素、細菌性リパーゼが皮脂を
分解してできる遊離脂肪酸などで炎症が惹起
炎症性皮疹(紅色丘疹)
↓ *炎症増強により毛包壁が破壊され、真皮に
内容物が漏出し、好中球がさらに集まり炎症が増強
膿疱へ進展
アダパレンは表皮角化細胞の角化亢進を抑制します。
それによって面疱発症が予防されてゆきます。
結果、その後の紅色丘疹、膿疱などの炎症性皮疹の進展も
抑制されてゆきます。
1)はじめに:ニキビの治療の現況について
「ニキビは青春のシンボル」というのは昔の話しです。
少なくとも「ニキビ痕」を最小限にするためにも
出始めた時からの皮膚科での治療が必要だと思います。
遅れていた日本での保険診療におけるニキビ治療において、
「ディフェリン」が治療薬として認可されたのは画期的な
ことでした。
それまで日本では毛穴での詰まりを改善する薬剤が皆無に
近い状態が長らく続いていました。
ケミカルピーリングなどの方法もありましたが、自費診療に
なってしまう、あるいは保険診療との混合診療になるとの
問題から制限がありました。
ようやく一歩欧米に近づいたのですが、実際にはまだまだ
隔たりは大きいのが実情です。しかしながら徐々に
ドラッグ・ラグは解消されてゆく方向に世の中の流れは
ありますので、このニキビの分野でも少しずつ改善されて
ゆくことを期待しています。
日本で認可されている「ディフェリン」の濃度は0.1%です。
実はこの濃度の薬剤は米国ではOTC薬(薬局で購入可能)で、
医師から処方されるのは0.3%の製品です。
日本人は刺激に対して敏感ですので、この濃度が選択
されましたが、今後の問題点としてはやはり効果不良の方への
高濃度製品の使用ができるようになってほしいなどの
要望があります。
また、以前からニキビ菌など細菌の増加に対する抗生物質の
使用が問題になっています。
欧米のガイドラインと比較すると、まだこの点において日本では
使用可能薬剤が制限されるために抗生物質を使用せざるをえない
状況が日本のガイドラインからは見えてきます。
この点においても少しずつ改善されてゆくはずですが
(「BPO」などとの合剤も治験されています)、
私たちもできるだけ抗生物質の使用を控えるようにして
ゆきたいものです。
そのために必要なこととしてスキンケアの見直し、
さらには漢方薬の併用もよいかと思います。
あとは混合診療の問題が解決されれば、光治療などいくつか
候補が広がるのでしょうが、今後の経過を見守って
ゆきたいと思います。
いずれにせよ、現状の日本では皮膚表面の角質をコントロール
する保険診療で使用可能な薬剤は「ディフェリン」だけと
言っても過言ではないのですから、私たちが工夫して先ずは
この「ディフェリン」を有効に使いこなしてゆきたいものです。
2)ディフェリンの導入
ディフェリンゲル小冊子PDF
①ニキビ治療の基本となる薬が「ディフェリン」です。
②「ディフェリンの作用」について説明します。
「ディフェリン」外用にて、皮膚のターンオーバーが
促進(生まれ変わりを早める)されます。
↓
外用継続することにより、皮膚表面(最外層)の
角質層が薄い状態に維持されるようになります。
↓
毛孔漏斗部(毛穴の出口)の角質も薄くなること
によって、皮脂が詰まりにくくなります。
↓
それによって、面疱(毛穴の出口での詰まり)が
出来にくくなります。
↓
詰まりがなければ、そこの細菌増加をはじめとする炎症
(紅色丘疹=赤ニキビ)も出来なくなります。
このように「ディフェリン」外用にて、
ニキビの大元である毛穴出口での詰まりが改善されてゆきます。
③「ディフェリンの使い方:特に使用範囲」
*点ではなくて、面で外用する意味を理解することが大切です。
ブツブツできているところだけに塗るのではなく、
あなたにとって、
ニキビの出来やすい部位には、その時にニキビが有る無し
に関係なく1日1回お風呂上がりに外用します。
アチコチにポツポツとニキビある状態でも、全体に沢山
ニキビがある場合でも、同じく全体に外用します。
ここで言うニキビとは、赤ニキビだけではなく、毛穴が
詰まったのが目で確認できる状態の白ニキビも含みます。
それによって微小面疱(目では確認できないような
毛穴の詰まり)まで治療されることになります。
言い換えれば、「ディフェリン」を塗り続けている皮膚だ
けがニキビの出来にくい角質層の薄い状態を維持できますし、
止めれば、本来あるべき姿に戻ります。
思春期の方であれば、少なくとも20歳くらいまでは継続
することを考えた方がよいでしょう。
④「外用抗生物質の意味と使用方法」
さらに盛り上がっているような赤ニキビがあれば、そこには
ニキビ菌などの細菌が増えている訳ですから、細菌の繁殖を
押さえる成分である抗生物質(化膿止め)の塗り薬を
その部分に上乗せします。
⑤「内服抗生物質の意味と使用方法、ならびに耐性菌など
の問題点」を認識して、「ディフェリンが治療の中心と
なる理由」を再確認しましょう。
さらに「おでき」のような大きな赤ニキビが沢山出始めた
時には、抗生物質(化膿止め)の飲み薬の手助けを借りてでも、
少しでも早く細菌の数を元ぐらいの量に減らすことを考えます。
↓
それによって「ニキビ痕」を最小限にとどめたい、のです。
但し、どんなに続けて内服しても、ニキビ菌やブドウ球菌
などの細菌は常在菌ですから(共存している)決してゼロ
にはなりません。
そればかりか、よく聞くように
耐性菌化(抗生物質が効かなくなる)するなどの問題が
生じてきます。
↓
だからこそ、「抗生物質の使用を最小限にとどめたい」
という事情が出てきます。
↓
だからこそ、ニキビ発生の原因の大元である
「毛穴のつまり」を処理することを中心に考えます。
↓
そのための保険治療薬が「ディフェリン」です。
繰り返しますが、だからこそ「ディフェリン」が
ニキビ治療の中心となります。
この目的で行われその他の治療法としては、
ケミカルピーリングがありますが、保険適応の治療
ではありませんので、自費治療となります。
⑥「アダパレンの副作用」について
(普通肌の方)
生まれ変わりを早くする(ターンオーバーを早める)、
ということは「皮を剥いてゆく」ということと同じですから、
大なり小なり皮膚ががさついたり、ということは
よくよくあることですし、もっと敏感な人は赤みが出たり、
ヒリヒリしたり、などが生じますが多くの人は1~2週間
という期間をかけて何とか使えるようになることがほとんどです。
刺激が心配な方は前額など比較的刺激症状が出にくい
一部から試してみるのもよいかと思います。
(敏感肌の方)
がさつきまでは許容範囲だけれども、赤みヒリツキというのは
皮膚が注意信号を発しているということだから、
その際には調節を入れましょう。その部分を避けて塗る、
より薄く塗る、など。あるいは乳液だとかクリームの後からあえて外用する。
そうすると薬の吸収が悪くなるから、効果が落ちたとしても、
刺激症状も少なくなるはず。それで使えるようになれば、
今度は使う順番を逆転させる、それも調節のうちである。
あるいは1日おきに外用することから初めても良い。さらには、
前額など比較的刺激症状が出にくい部位から試してみるのもよいかと思います。
(その他、参考までに)
*アトピー性皮膚炎を基礎疾患に持っているヒトでも
使えているヒトは少なからずいます。
だから、無理をする必要がないので自分のペースで
継続してゆくことを考えてください。
*湿疹などのコントロールが先ずは優先
→その後に「アダパレン」導入を考えましょう。
*ターンオーバーを早めると言っても、一回転するのに
約1ヶ月はかかるわけですから、この手の外用剤は2ヶ月、
3ヶ月と続けてゆくうちに少しずつニキビの出現の確率を
少なくしているものだということを理解してあせらず
継続することを先ずは考えてください。
⑦「皮膚のターンオーバーへ影響を与える事項と日常生活での注意点」
・メークや汚れを十分に落とせていない
・水分が不足する(逆に保湿しすぎも問題)
・紫外線に当たる
・周りに赤ニキビがある
・かぶれ、湿疹
もっと言えば、
・髪の毛や衣服がすれる(帽子やマスクなども)
・自分で触るのが刺激になる(無意識のうちにこすってしまう、なども)
・ひげそりで悪化する
(剃らなくて大丈夫な時には肌を休めましょう。肌へ負担の少ない方法を模索)
など、ご存じのようにいろいろなことがターンオーバーに影響を与えます。
だからこそ、自分が手を出せるところからでも、
日常生活でのスキンケアの改善を考えましょう。
(その他、注意点)
*食生活も重要です。やはり好き嫌いなく種々の食物をバランス
よく摂取するよう心がけましょう。
*日焼け止めも実は界面活性剤が比較的多く含まれています。
界面活性剤が皮膚に残留して一時刺激性皮膚炎を起こして
毛穴の炎症を惹起します。一般的にトロリとした感触の製品には
界面活性剤が多いようです。
ファンデーションももちろんリキッドタイプに多く含まれます。
*化粧品は界面活性剤、油分・合成ポリマー、
保存料、タール色素、香料が含まれないものがよい。
closing
では次は2週間後に「ディフェリン」を使ってどうだったか、
経過をお見せ下さい。
その際に、下記の事項についてお尋ねする場合が
ありますので、自身の状況を把握しておいて下さい。
また、刺激があまりにも強い場合にはもちろん中止して
早めの再来をお願いします。
最初に決して無理をする必要はありません。少しずつでも
使えるようになるのが先ずは目的です。
6)再診時:「ディフェリン」使用してどうだったか?
を尋ねます。
・問題なく使えましたか? 処方後再来までの期間で
どれくらいの「ディフェリン」を使用しています?
どの範囲に外用をしていますか? 部位によって
刺激症状の出方(程度)が違いますか?
どの部位の刺激症状が強いですか?
・最初はがさついたけど、調節してゆくとその後は
大丈夫になった。→「そのとおり。その調子で継続を」
・真っ赤になりました→先ずは反応を抑えましょう。
中止あるいはステロイド外用を行ないます。
→紅斑・鱗屑などの症状改善を確認後に再開
→再開するときの注意点を指示:使用頻度
(1日おきでもOK)、外用の順序を変える、
自分のペースでよいから、無理しないこと。
・使用量の確認:*刺激がなくて、治りが悪く使用量が
少ないようなら→使用量を増やすことを提言
*「筋トレ」と同様、少しずつ負荷をかけてゆきましょう
*平均的な使用量:15gで1ヶ月くらいから始まる。
人によっては次第に15gで2週間くらいへ
無理しないで、あくまでも自分のペースで継続すること。
・刺激で使いたくない、使えない→「残念です」角質を
コントロールする唯一の保険適応薬なのですから。
肌質は人それぞれなので仕方がないことです。
治りが悪いなら、肌が落ち着いてから再導入を試しても
よいのでは?
→無理をしても続けることが出来ません。
ADでも使用可能な人はいる。少しずつならせば
大丈夫なこともある。
→数日おき、1日おきでも試してみては?
・外用中断で再燃して再来→「継続すること」
「止めれば本来あるべき姿に戻ります」
男性の毛生え薬(AGAの薬剤)も同様で、止めれば
徐々に元に戻ります。
・その他:次第に治療をシンプルに
(何が治療の中心か、を理解してもらいたい)
・外用抗菌剤:抗生物質なのだから、菌が増加した
箇所に作用、耐性菌の出現が問題となります。
・内服抗菌剤:最小限にとどめる(同上)
慢性膿皮症など、使わないとコントロール出来ない方
がいるのも事実です。
しかし、小さな紅色丘疹(痕を残さないような程度)の
皮疹には使わない、漢方薬の併用なども考えましょう。
・どうしても「ディフェリン」使用困難なら、ピーリング
や光治療,アグネス、Vビームなどを考えましょう(自費診療)。
医療法人社団 精華会
ミルディス皮フ科 村上 義之