ホクロとシミはもちろん別物です。
もちろん、シミと呼ばれるものの中には真皮内
(皮膚の深い層)にメラノサイト(色素を作る細胞)
とともに細胞内にメラニン色素が多数ある状態や
通常は表皮内のメラニン色素が主体なのだが、
表層のメラニン色素が真皮内に滴落した状態を
併発している症例もあります。
しかしながら一般的にシミと呼ばれているものの
多くは、表皮(皮膚の表面)にメラニン色素が増加
して周囲の皮膚に比べて色濃く見えている状態です。
一方、ホクロがホクロたる所以は大なり小なり
ホクロの細胞と呼ばれる母斑細胞が表皮と真皮
の境界部や真皮内に存在していることです。
平坦なホクロもあれば盛り上がったホクロも
ありますが例え平坦であったとしても真皮内
奥深くまでこの母斑細胞が存在している
ホクロもあります。
そのため、ホクロ治療はQスイッチレーザーでの
シミ治療と異なり、表面の表皮を軽くやけどさせて
除去するだけでは不十分なことが大半です。
また、一般的には真皮内のメラニン色素を
Qスイッチレーザーで破壊するには、
色素の量が多すぎることが多いため現実的で
ない場合が大半です。
治療においては、真皮内の母斑細胞ならびに
メラニン色素の容量をどれだけ減少させること
が出来るかにかかっています。
参照
皮膚科医 清水 宏 オフィシャルサイト
あたらしい皮膚科学 第3版:20章
母斑と神経皮膚症候群
母斑細胞母斑(別名:色素性母斑)
ホクロの病理組織像について
母斑細胞母斑(真皮内・境界・複合)
マクロ像:いわゆる“ほくろ“と呼ばれているものの
中で最多。褐色から黒色の隆起を示す。
ミクロ像(HE弱拡大):メラノサイトにもシュワン
細胞にもなれなかった母斑細胞(円内)が真皮内で
増生する。
ミクロ像(HE強拡大):真皮浅層では数個の母斑細胞
からなる胞巣を形成、多核のものもある。
真皮深層ではやや小型化し、個細胞性に散らばる。
細胞境界が不明瞭(右図)。
病理コア画像より引用
社団法人 日本病理学会教育委員会編集
〒113-0034 東京都文京区湯島1-2-5 聖堂前ビル7階
Tel:03-6206-9070 Fax:03-6206-9077
http://pathology.or.jp/ jsp-admin@umin.ac.jp
ホクロ治療の前に確認
先ずは、診察にて治療をご希望されるホクロを
本当にホクロなのか、他の皮膚疾患
(脂漏性角化症、悪性黒色腫、基底細胞癌など)が
考えられるのかについて確認をさせていただきます。
もし他の疾患が疑わしい場合は保険診療にて
皮膚生検を行い病理診断にて確定診断を
つけてからの治療になる場合があります。
皆さんが一番心配されるのは、ホクロの癌とも
言われる悪性黒色腫(メラノーマ)でしょう。
従来より一般の方にもわかりやすいように、
見分ける際に気をつけるべきポイントが
ABCD(E)でまとめられています。
A:Asymmetry(左右非対称)
形が左右非対称でいびつな形状
B:Border(辺縁、境界)
周囲の皮膚とホクロの境界がギザギザして
不整/色のにじみ出しがある
C:Color(全体の色調)
色が均一でなく、ムラがある
(濃かったり、薄かったり)
D:Diameter(直径、大きさ)
長径が6mm以上
E:Evolving(進展、変化)
大きさが拡大する、色・形
(隆起や潰瘍化を含む)などが変化する
上記の場合に悪性黒色腫の可能性が高まると
言われています。
さらに詳しくは
国立がん研究センターのHPを参照下さい。
診察や皮膚生検にて悪性黒色腫の可能性が高い
(あるいは疑わしい)と
診察医が判断した際には、がん拠点病院や
大学病院などの高次医療機関へご紹介させて
いただきます。
ホクロの治療内容
当院では、ホクロ治療の適否について
下記のように考えています。
施設によっては炭酸ガスレーザーではなく、
高周波電気メスであったりQスイッチ
アレキサンドライトレーザーではなく、
QスイッチルビーレーザーQスイッチYAGレーザー
であったり中にはQスイッチではなく
ノーマルモード(ロングパルス)の
ルビーやアレキサンドライトレーザーを
併用するところもあろうかと思います。
多少の違いはあれども、基本的な考え方は
同様だと思われます。
ホクロ治療の方法として、大きく分類すると
1)メスによる外科的切除
2)炭酸ガスレーザーでの蒸散治療
3)Qスイッチレーザーでの治療
(炭酸ガスレーザーに併用の場合もあり)
当院で行っているホクロ治療もこれら
3種類の治療を使用しています。
以前はダイオードレーザーによる治療を
行っていましたが、現在は対応機器が
無くなり行っていません。
1)メスによる外科的切除
先ず、ホクロ治療の目的を確認しましょう。
傷痕がある程度残ろうとも、確実に根こそぎ
ホクロを除去したいというのであれば、
やはりメスを使用した外科的切除が優先されます。
外科的切除治療にも種々の方法がありますが、
代表的な治療法として紡錘形にデザインして
ホクロを切除・縫合して線状の傷と
交換するという方法があります。
この場合には線状に縫合しやすくするため
紡錘形にデザインするので、ある程度の
ホクロ周囲の正常皮膚を含めて切除する
ことになります。
結果として元のホクロの2~3倍の線状の
傷と交換することになります。
くりぬき法といって、ホクロより一回り
大きくくりぬくように切除して縫合せずに
自然に傷が縮小してゆき塞がるのを待つ
方法もありまが大きいと陥凹瘢痕
(へこんだ傷痕)が目立ってしまいます。
それを軽減させるために切除辺縁を巾着状に
縫合する場合もありますが原則的には
小さいホクロや腫瘤に対して行う方法だと
思います。
2)炭酸ガスレーザーでの蒸散治療
一方で、炭酸ガスレーザーによるホクロ治療
というのはホクロの成分(母斑細胞)が下床に
多少残っても良いので周囲の正常皮膚をできる
だけ傷つけないで母斑細胞の群れを蒸散
(削り取る)させてそれらのボリュームを
減らして見栄えの改善をお手軽に得ようと
いうものです。
もちろん、浅いホクロであれば1回の施術で
ほとんどわからないレベルになるものもあります。
盛り上がった黒いホクロがあったとします。
1回の炭酸ガスレーザー治療で平坦化はした
けれどもある程度の黒い色調が残った状態に
なったとしたら少なくとも平坦化して元の
盛り上がった黒いホクロに比べると
目立ち度合いは減少して見栄えの改善には
繋がっていると思われます。
また黒い平坦なホクロが治療によって
範囲が縮小したり色調がより薄くなったり
しても見栄えの改善としての一定の効果は
得られたというような状態を想像して
いただければと思います。
こうした変化を皮膚への侵襲を少なくして
お手軽に得ようというのがレーザー治療だと
考えて頂き、それにてメリットを感じられる
ようであれば適応となると考えて頂ければ
よいかと思います。
そのため、こうしたレーザー治療にはホクロの
タイプによってより適したホクロとそうでない
ホクロがあります。
レーザー治療で変化しやすいホクロ
・隆起した色調の薄いホクロ
・隆起した色調の濃いホクロ
(黒さが多少残っても、平坦化する)
・平坦で色調の薄いホクロ
(薄いものほど、炭酸ガスより
Qスイッチレーザー治療が適しています)
レーザー治療が適していないホクロ
・平坦で非常に色が濃いホクロ
*色調が青く見えるほど真皮の深い位置に
まで色素があることが予想されます。
典型例としては、平坦なものもあれば隆起した
ものもありますが青色母斑と呼ばれる真皮に
メラニン産生能が高いメラノサイトが密集した
ホクロが挙げられます。
治療としては切除治療を選択します。
参照
皮膚科医 清水宏オフィシャルサイト
あたらしい皮膚科学 第3版:20章
母斑と神経皮膚症候群
b.真皮メラノシアイト系母斑:青色母斑
治療手順
- どのホクロを治療するかを確認
- 大きさを測定して、事前に料金を提示
- 同意書の記入
- 写真撮影
- 患部の消毒後に局所麻酔薬の注射
- 隆起が顕著であれば11番メス(尖刃)で
突出部をshave - 炭酸ガスレーザーでなだらかになるように
ホクロの周囲も含めて蒸散治療 - 必要時にはQスイッチレーザーの追加照射
- 止血を確認し、テープを患部に貼付
3)Qスイッチレーザーによる浅い平坦な
ホクロの治療
真皮内の母斑細胞ならびにメラニン色素の量が
少量で浅い位置にあるようなホクロ
(一般的には平坦で色調が薄い茶色)詳しくは
境界母斑か複合母斑の真皮内病変が非常に
少ないタイプのホクロが対象となります。
通常のシミ治療にも用いられるレーザーですが
その出力を強く設定することによって強い反応
を起こさせて除去しようという治療法です。
局所麻酔の注射も不要で炭酸ガスレーザーよりも
さらにお手軽なだけでなくより施術後の痕が
残りにくい方法となります。
浅いホクロであれば、時に複数回かかることも
ありますが効果的かつ簡便でよい方法と思います。
治療手順
- 大きさを測定して事前に料金を提示
- 同意書の記入
- 写真撮影
- Qスイッチレーザーの照射
- テープを患部に貼付
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ホクロ治療全般について
一定の深さのホクロの治療においては、外科的切除
はもちろん、炭酸ガスレーザーによる治療でも傷痕
は必ず残ってしまいます。
例えば、炭酸ガスレーザーで一見遠目ではきれいに
みえても近くで拡大してみると治療部位が周囲の
正常皮膚と比較すると毛穴が消失していたり、
皮膚のキメが消失してツルツル、テカテカした
軽度の瘢痕を形成しているのがわかります。
これは致し方ないことです。
これら傷痕を出来るだけ目立たせないで、
元のホクロがより目立たなくなるように皆様と
相談してどの方法を選択するのかを一緒に
考えてゆきたいと思います。
また、盛り上がったホクロが炭酸ガスレーザー
治療によって一旦は平坦化しても、加齢ととも
に再度隆起してくることは時に見受けられます。
これは若年者であればあるほど、その確率は
高くなります。
16歳の顔面に隆起したホクロがあったとします。
その子が成長して保護者の年齢になられた時に
果たしてそのホクロは同じ大きさでしょうか?
多少なりともさらに大きくなっている可能性は
十分にあります。
一方で、70歳の年齢の方の顔面の隆起したホクロが、
その後さらに隆起していく可能性はかなり低いで
あろうと想像できます。
外科的手術、レーザー治療など、どの治療法に
おいても個人差がありますし個人差だけでなく
個々のホクロのタイプや深さによって同じ治療法
を行ったとしても結果が異なることがあります。
私たちはベストをつくしますが、結果に差が出て
しまうことは残念ながらすべての治療における
前提条件となっていることを何卒ご理解ください。
医療社団法人 精華会
ミルディス皮フ科 村上 義之