東京都足立区ならびに神奈川県横浜市西区にある
ミルディス皮フ科の村上です。
今回、急遽この帯状疱疹ワクチンについて
書こうと思ったきっかけは下記の2つです。
1)当院でも開始したアトピー性皮膚炎
に対するJAK阻害薬
(オルミエントやリンヴォック)使用時に
帯状疱疹の罹患率が高いことが
明らかになるにつれ、そのための予防策
としてのワクチンの重要性が言われてきている。
2)コロナワクチンが加わったことで、
ワクチンの種類による
ワクチンスケジュールについて
知っておいてもらいたい。
—————————————————————–
さて、本題に入りましょう。
●帯状疱疹とは
帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)のウイルスである
水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症します。
水痘に罹患後もこのウイルスは
体の中の神経節に潜んでおり、
80 歳までに約 3人に 1人が帯状疱疹
になると 言われています。
水疱や紅斑が帯状に集簇して出現するからこそ、
帯状疱疹(胴巻き)と言われますが、
皮膚症状よりも前に先行して痛みが生じることが多いです。
皮膚は何ともなくて中にピリピリ、
ズキズキした痛みが出現するため、
当初は帯状疱疹とはわからず、
皮膚の症状が出現してはじめて
気づくことも多い疾患です。
治療は発症早期にバルトレックス、ファンビル、
アメナリーフといった抗ウイルス薬を7日間服用します。
問題なのは帯状疱疹後神経痛と
呼ばれる皮膚症状が落ち着いても、
痛みだけが長引く状態で、50 歳以上で
帯状疱疹を発症した人の 18%に
生じるとも言われています。
稀に顔面神経麻痺など運動神経に
障害を残す場合があります。
●帯状疱疹ワクチンについて
50歳以上の方に推奨される任意接種のワクチンです。
過去に帯状疱疹にかかっていても接種は可能です。
2019年までは国産の水痘生ワクチンのみが
使用されてきましたが、2020年1月より
新しい不活化ワクチン
「シングリックス」が発売となり、
現在はこの2種類から選択が可能となりました。
以下、シングリックスの特徴についてご紹介します。
シングリックスについて
投与方法
・2ヶ月間隔で筋肉内に0.5mlを2回接種
・2ヶ月が望ましいのですが、諸事情でタイミングが
ずれたとしても6ヶ月以内には2回目
の接種すべきとされています。
効果について
・シングリックスは特殊なアジュバント
(薬剤に対する免疫応答を増強させる物質)を使用。
これによって従来の水痘生ワクチンを
上回る効果が期待できます。
帯状疱疹予防効果
50歳以上:97.2%
70歳以上:89.8%
帯状疱疹後神経痛の予防効果:88.8%
帯状疱疹予防効果が接種後3~11年で
減弱との報告があります。
一方で、従来の水痘生ワクチンの効果については
帯状疱疹発生率:51.3%減少
帯状疱疹後神経痛の発生率:65.5%減少
帯状疱疹の重傷度:61.1%低下
発症予防効果は少なくとも9年間
認められるとされています。
現時点ではいずれのワクチンについても
再接種の時期は明らかになっていません。
副反応について
ワクチン接種による免疫反応のため
接種後7日以内に生じた副反応として
注射部位の痛み(78%)
赤み(38%)や腫れ(26%)
があらわれますが、多くは 3 日以内に
治まっています。
アジュバントにより強い免疫応答を
誘導するため、
筋肉痛(40%)、疲労(39%)、頭痛(33%)
悪寒(24%)、発熱(18%)
といった全身性の副反応も生じますが、
多くは7日以内に軽減します。
一方で水痘ワクチンに特異的な副反応
としては接種後1-3週間後に発熱や、
2-3%に全身性の水痘様発疹
がみられることが知られています。
接種にあたっての注意点
〇下記の方はワクチンの接種を行ってはいけません。
・37.5℃以上の発熱がある人。
・重篤な急性疾患に罹患している人。
・過去にこのワクチンに含まれている成分で
アナフィラキシーをおこしたことがある人。
・上記以外に医師が予防接種を行うことが不適当な
状態にあると判断した人。
〇下記の方は医師が接種の適否を判断(慎重投与に該当)。
・ 心臓や血管、腎臓、肝臓や血液の障害などの基礎疾患がある方。
・ 他のワクチンの接種を受けて、2日以内に発熱があった方や全身性の
発疹などアレルギーが疑われる症状が出たことがある方。
・ 過去にけいれんをおこしたことがある方。
・ 過去に免疫に異常があると診断されたことがある方や
両親や兄弟に先天性免疫不全症の人がいる方。
・ 血小板減少症や凝固障害を有する方、抗凝固療法を受けている方。
ワクチンスケジュールについて
従来の水痘生ワクチンの場合
不活化ワクチン:接種間隔の制限はありません
他の生ワクチン:27日あけて接種。
シングリックスの場合
不活化ワクチン: 接種間隔に制限はありません。
生ワクチン: 接種間隔に制限はありません。
※ ワクチンの種類について
注射生ワクチン:麻しん風しん混合ワクチン・
水痘ワクチン・BCGワクチン・
おたふくかぜワクチン など
経口生ワクチン:ロタウイルスワクチン など
不活化ワクチン:ヒブワクチン・小児用肺炎球菌ワクチン・
B型肝炎ワクチン・4種混合ワクチン・
日本脳炎ワクチン・
季節性インフルエンザワクチン など
新型コロナワクチンと他のワクチンは、同時に接種できません。
厚生労働省のHPによると、
新型コロナワクチンとその他のワクチンは、
お互い片方のワクチンを
受けてから2週間後に接種可能とされています。
私見ではありますが、このコロナワクチン
における2週間という投与間隔についても、
新しいワクチンであり、数字の根拠も不明確な
ように思われますので、生ワクチンに準じて
27日以上(1ヶ月)あけての接種が
無難なのではないかと感じています。
———————————————————————————————————
●最後に二つのワクチンのまとめ
帯状疱疹予防ワクチンの種類
いずれも日本では50歳以上に
推奨される任意接種ワクチンです。
1)水痘生ワクチン: 弱毒化ウイルスの
生ワクチン(阪大微生物病研究会)1回接種
2)シングリックス:遺伝子組み換え法の
不活化ワクチン(GSK社製)2回接種
違い①:ワクチンの効果
「水痘ワクチン」はやや弱め。
60歳以上への投与で帯状疱疹発症は半減、
帯状疱疹後神経痛の発症も約1/3に減少。
「シングリックス」は非常に強力。
50歳以上への投与で帯状疱疹発症は
3%にまでに激減し、
70歳以上でも帯状疱疹発症10%にまで
大幅に減少しています。
帯状疱疹後神経痛もそれに見合って減少。
違い②:副反応
いずれも重篤な副反応はまれですが、
注射局所の痛みや腫れは明らかに
シングリックスの方が強い。
そして、筋肉痛や疲労感,頭痛のような
全身症状も「シングリックス」に多い。
免疫応答を強めるために配合されている
アジュバンド成分がその原因とされています。
なお,生きたウイルスを含む「水痘生ワクチン」は
HIV感染など免疫機能低下の人には使用できません。
違い③:価格と注射回数と注射方法
当院価格(税込)と注射回数
「水痘ワクチン」 7,700円 ×1回 = 7,700円
「シングリックス」 22,000円 ×2回 (2ヶ月間隔)= 44,000円
注射方法
「水痘ワクチン」:皮下注射
「シングリックス」:筋肉内注射
あなたはどちらを選択しますか?
効果の差、値段の差はいずれも明らかです。
効果の点ではシングリックスが優れ、
値段の点では水痘生ワクチンが安価です。
すなわち、
効果を重要視する方はシングリックス。
値段を重要視する方は水痘生ワクチン。
ということになるでしょう。
ワクチン入荷までに 数日程度お時間を
頂きますので、完全予約制となります。
いずれも任意接種のため、自費となります。
参考
HZ・Sフォーラム報告 第2回 帯状疱疹の疫学・検査:
帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2018)」アップデート
帯状疱疹の宮崎スタディ(モダンメディア 66巻9号2020)
新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンは
同時に接種することはできますか:厚生労働省
関節リウマチ患者さんにおける 新たな帯状疱疹
サブユニットワクチン導入の意義
医療法人社団 精華会
ミルディス皮フ科 村上 義之